不安で結婚の延期を切り出す私を、明るく救った彼の優しさ。

 極端なめんどくさがりの私たち。外でのデートも、自宅に帰るのさえ億劫になってしまい、気付けば一緒に住んで5年。両親への挨拶もとっくに済んでいたのに、式の日取りだとか、現実的なことは全く動かないままでした。

 ある夕食デートの帰り道、突然、強烈な腹痛に襲われました。検査結果は「卵巣嚢腫の再発、全摘出の可能性もあり、即手術」でした。手術への不安より、彼になんて言おう、彼のご両親はどんな反応をなさるだろうか......という不安でめまいがしました。当時私は33歳。子どもを授かるにはタイムリミットが迫っていたし、それ自体無理かもしれない病気を抱えた人間を嫁に迎えるだろうか......。

 その夜、テレビを見ていた彼に、食器を洗いながら話しかけました。できるだけ平静を装ったのですが、声が震えました。「やっぱり卵巣嚢腫再発してた。年明け、すぐ手術するけん。だから、結婚するのさあ、治ってからにしようかねえ......」――沈黙。そりゃ驚くよね、と泣きそうになった次の瞬間。彼は、首だけで振り返ると「おう! じゃあ、紙、出しちゃえよ」と、楽しそうに言いました。「は?」何を言っているんだこの人は、と怒りさえ覚えた記憶があります(笑)「手術だろ?家族の方がなにかと便利だろうが。説明とか保険とか、面会とか」「いやいやいや!!! そうじゃなくて!! 腫瘍の場所が場所だけに......、子どもできないかもよ?迷惑かけるし、ご両親にも何て言ったらいいか」うろたえる私に彼がとどめを刺しました。「俺の人生だ、親は関係ない」

 次の日、お互いの仕事の合間に市役所に行き、本当に婚姻届を出しました。何の記念日でもない、入籍のドキドキや余韻に浸る暇もない、たった30分。受付カウンターで書類をもらう彼の背中をぼんやり眺めていたら、あまりにも私たちらしすぎて、笑いと涙が止まらなくなりました。後日、彼のご両親は、「悪いところも見つかって、あの子もやっと動く気になって、いいことづくしだったわねぇ」と、彼以上に、明るくあっけらかんと言ってくださいました。

しろねこぽんたさん (30代・女性)

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