父にどうしても「渡さんぞ!」と言われた驚きの理由とは?
つき合い始めてからちょうど3年が経ち、お互いのアパートを頻繁に行き来するようになった頃でした。その日は私の実家に彼を連れて行くことになりました。旅行のお土産を渡したいからと連絡があった母に、「紹介したい人がいる」と思い切って告げたのです。日頃から事あるごとに結婚という二文字を会話に挟んでくる母が舞い上がったのは言うまでもなく、思いの外するりと口からこぼれたそのひと言に、私自身どきっとしてしまい「まるでドラマみたい」と苦笑いを浮かべたのを覚えています。
周りが飛ぶように結婚していく中、将来の話をすることはあっても、なかなか彼からプロポーズらしい言葉をもらうことができず、少し焦っていた私。彼は快く実家を訪ねることを承諾してはくれたものの、ちゃんと期待どおりのセリフを口にしてくれるだろうかと、私はハラハラしながらその日を迎えました。
前日まで何を着ていくか散々迷った挙句、きちんとした黒スーツにびしっと身を包んで、実家の玄関をまたいだ彼もやはりそわそわと落ち着かないらしく、顔に貼りつけたにこやかな笑みがどことなくぎこちなく見えます。母が大はりきりで作った手料理を囲みながら、時間だけがじりじりと過ぎていく中、「今日は無しかな」と半ばあきらめかけた時でした。隣に座る彼が意を決したように姿勢を正して軽く咳払いをしました。「お父さん、ともこさんをお嫁に下さい!」
一瞬の沈黙の後、母が高笑いをしながら紅茶をお盆にのせて足早にやってきました。「あら、いいわよ。私でよかったら」そう。大声で母を呼び立てる父につられたのか、彼は私ではなくて母の名前を堂々と口にしてしまったのです。「渡さん。ともこは渡さんぞ」普段は真面目な父までが冗談を飛ばすものだから、もう家族一同ゲラゲラと大笑い。
その後、真っ赤な顔をして、「笑いの絶えない家庭にしよう」と言ってくれた彼とほどなくして無事結婚する運びになったのですが、今でもこの一件は我が家の格好の笑い種になっています。
りすさん (20代・女性)
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